余薫記

University Student in Kyoto

【読書】ニーチェ著 氷上英廣訳『ツァラトゥストラはこう言った(上)』(原題:Also sprach Zarathustra)(岩波文庫, 1967年)

かの有名な哲学者であるニーチェが、旅人ツァラトゥストラの口を借りて、その思想を展開していくスタイルの本書。岩波文庫は短く難解な言い回しが多いけど、言葉のひとつひとつを吟味できるのが魅力的な点であり、本書はそんな魅力を楽しめる良書だった。

 

ツァラトゥストラはこう言った 上 (岩波文庫 青 639-2)

ツァラトゥストラはこう言った 上 (岩波文庫 青 639-2)

 

 

人生において大事なことは何か、と問われたら私はアイデンティティの確立」と答えるだろう。すなわち「自分自身を理解すること」だけど、それは決して楽な道のりではない。なぜなら誰一人同じ人間は存在しないから。そんな世界で個を確立していけば、次第に強い孤独を伴うようになる。

 

「どこかに理解し合える人が居るかもしれない」と期待していても、そんな「自分自身を完全に理解してくれる人」はこの世にひとりも存在しないのだ。

 

 

自分を知れば知るほど孤独が強くなるのは、当然のことではないか。家庭環境・生活習慣・交友関係・健康・学歴・関心事・嗜好・得意分野……好きなものも違えば、生きてきた背景もそれぞれ異なる。人生で培われてきた思想も当然異なる。遺伝子が全く同じ一卵性双生児でさえ、同じような環境で育っても性格は異なってくるのだから、遺伝子も環境も異なる人間同士が100%理解し合うなど無理難題でしかない。孤独なのは当たり前だ。されど人は「誰か」を追い求めてしまう。存在もわからぬ神とやらの仕業だろうか。

 

そういえば「神は死んだ」という、かの有名なニーチェの言葉は本書にある。科学の発展などでキリスト教に対する信仰心が薄れてきた時代に対して、この比喩を使う事によって「従来の価値観からの転換」を示そうとしたんだろうね。科学と宗教の関連性は非常に面白いから、これについてはダン・ブラウン著『天使と悪魔(上)』や、三田一郎著『科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで』の感想でまた詳しく書きたい。

 

さて話を戻すと、ツァラトゥストゥラの口を借り孤独な者に対してニーチェはこう語る。自分の敵は、いつも自分自身なのだと。これは103ページより始まる、「創造者の道」という小見出しからの引用だ。

あなたはあなた自身の炎で、自身を焼き殺そうと思わなければならない。自身がまず灰となるのでなければ、どうしてあなたは新しいものとなることを望めよう!

 

創造するためには、まずは破壊されなければならない。アンリ・エレンベルガ―(Henri Ellenberger)という精神医学者が名付けた病名のひとつに、創造の病(Creative Illness)がある。簡潔に述べると「天才たちは精神的に病む経験をしている」というものだ。本書の著者であるニーチェ統合失調症だったそうだ。もちろん神童と呼ばれる部類の先天的な天才も存在するから、この場合だと後天的なものを指すんだろうね。下記のリンクは英語だけど、難しい専門用語などはなく、文系の私でも読み易くて面白かったので載せておこう。

Creative Illness. When Physicists and Artists Found a Common Language. - Sleep and Health Journal Chicago

 

こちらのリンク先で »Physicists noticed that not all disorders in the nature is not necessarily a bad thing. « と述べられているように、病気や障害だからだといって必ずしも悪いというわけではない。精神的な病を持つことはネガティブなイメージに捉えられがちで、精神科に行くことを憚る人たちも多い。

 

しかし、弱点を克服しようとすることの何が悪いのだろう。己の悪しき部分から目を背け、周囲が囁く甘い言葉に負け、現状に甘んじながら生きようとするよりはまだいいと思う。

 

人間は己の醜さを突きつけられると苦しくなる。だから、目を背けることで保身に走ってしまうんじゃないかな。でも自の醜さを認めて向き合うことは、何も恥じる事ではないと思う。むしろ自分の短所を見つければ、人生の解決法を編み出すことができる。創造の病を克服した天才たちは、その弱点を活かして己の武器として携え、世界を変えた者たちなんだろう。自分自身を破滅させるくらいの苦しみを乗り越え、もしくはその苦悩の中で、自ら創造する術を知ったんじゃないのかな。この「創造者の道」の最後に書かれている一文に、とても勇気付けられた。

わたしの涙をたずさえて、あなたの孤独のなかに行きなさい。わが兄弟よ。わたしが愛するのは、自分自身を越えて創造しようとし、そのために破滅する者だ。

 

 

All the difficulties make me strong, I believe.

頑張ろう。