余薫記

Nothing but this is the part of me.

【読書】ダン・ブラウン著 越前敏弥訳『天使と悪魔(上)』(原題:Angels & Demons)(角川書店, 2006年)

光と闇を感じられる作品が好き。だからこそこの特徴的なタイトルに惹かれて購入してしまったけど、さすがダン・ブラウンである。『ダ・ヴィンチ・コード』を昔読んだとき、ヨーロッパの街並みと芸術美を思い浮かべられる描写、機知に富んだ謎説きが面白く、彼の世界観に引きずり込まれたのを思い出した。


天使と悪魔(上)

天使と悪魔(上)



本作はハーバード大学にて宗教象徴学の研究者を勤める主人公・ラングドンが、とある電話を受けるところから物語が始まる。その相手は、なぜか科学研究機関であるスイスのセルン(欧州原子核研究機構)の所長だった。研究所で殺人事件が起こり、宗教に詳しいラングドンの力が必要だという。



宗教と科学、どう関連があるのか。
そんな疑問を胸に抱きながら読み進めていくと、物語をより深く楽しめると思う。




ヨーロッパにおける悠久の歴史の中で、両者は相反する存在として対立し合ってきた。お互いが敵対視する意味は何だろうか。これは疫病や天災などをはじめ諸事の解決法が、宗教にあったからだと思う。しかし科学の発達はその謎を明確にし、人々により詳細で的確な解決法を与えてしまった。


「日の出や日の入りは、ヘリオスと炎の戦車が起こすとされていた」が、そうではないと。「地震津波もポセイドンの怒りと考えられた」が、それは間違っていると。ここに挙げられたのはギリシア神話の神々だが、当然ながら当時からヨーロッパで強い影響を持つキリスト教も含まれる。つまり科学は、神々の所業だと考えられてきた数々を解明してしまったのだ。


こうなると面白くないのが宗教側だろう。科学者たちを「神に反する者」つまり「悪魔」として迫害した。かつて地動説を主張したガリレオ・ガリレイが宗教裁判にかけられたように。当然ながら、科学者たちも危機感を覚えて敵対し始める。16世紀に始まった知識人たちの議論の場だった団体。宗教に迫害された科学者が身を潜めるための秘密結社であり、そして歴史上では既に消滅したはずの組織―――それがイルミナティだった。



タイトルでもある「天使と悪魔」は、「宗教と科学」のことだったのか。物語を進めながら、これらの関係を吟味していた。


物語では、殺された被害者の胸に謎の刻印が焼き付けられている。冒頭のシーンで印象的な部分だ。セルンの所長に呼び出された宗教象徴学研究者である主人公ラングドンは、その刻印が今は存在しないはずの組織・イルミナティのものであると明らかにする。その刻印がなぜ現代にあるのか戸惑うと同時に、科学者が科学者を攻撃するはずはないと反論した。被害者は優秀な科学者だったからね。






一般的には、科学と宗教は相反する存在だと考えられている。これは物語のネタバレにはならないはずだけど、より深く楽しめる重要なキーワードだと思うので紹介しておこう。先程も書いたように、実際に科学は神々の所業だと考えられてきた数々の謎を解明してしまった。そしてあらゆる現象を予知したりする時は、宗教よりも科学のほうが確かなものが得られるのは自明の理だ。中世ならばまだしも、このご時世で「科学より宗教」と言う人々たちのほうが少ないだろう。しかし実際は、科学に携わる人々の中にもキリスト教信奉者は存在するのだ。この詳細については別書で紹介したい。



そして物語からは少し逸れるけど、大学の友人とご飯を食べていた時に進化論(theory of evolution)の話になったことがある。進化論は賛否両論あるけれど、友人は懐疑的な立場だと言っていた。私自身は文系だから理系科目に関しては学校で習う程度の知識しか持っていない。でも物事には順序があるものだから、当然人間は様々な進化を遂げて今に至るものだと思っていた。もちろん学校でそう教えられたからだ。しかしどうやら日米で学校事情は異なるらしい。アメリカの学校では進化論を教えないというのは調べながら何度か目にしたけど、ダン・ブラウンの本書でも同じことが書かれていたので実際そうなんだろうね。でも日本の公立学校では理科や生物の授業でダーウィンの進化論を習うし、科学が証明した事実のように思っていたから、今まで疑ったことなどなかった。


物事は順序立てて進むものだから、急に1から10になるはずがない」と疑問に感じて反論したのを覚えている。すると友人に、「それならば0から1はどうなるの?ゼロの状態からイキナリ生まれているよ」と返されたものだから戸惑ってしまった。


キリスト教信者ではないから詳しくはないけど、と述べた上で聖書の創造論との関係性についても話してくれた。簡潔に述べると「神は自分に似せて人間を創造した」というものだね。そしてその最初の人間がアダムとイブ(Adam and Eve)だったというのは、キリスト教徒でなくても知っている有名な話だ。(ちなみにイブに関しては、カタカナ表記ではエバという書き方もあるらしい。)


聖書に載っている話は科学に当てはめて考えてみると案外面白いんだとか。日本では地下鉄サリン事件の影響で、新興宗教はじめ「宗教」というワード自体に嫌悪感を持っているように思う。だから声を大にしては言いづらいけれど、「宗教と科学の関連性」というテーマを調べると何か面白い発見ができるかもしれないね。



教科書に載っているからといって、正しいとは限らない。それを改めて考えさせられた。0から1になれるのならば、物事を何もない状態からイキナリ生み出す事も可能だ。あまり書きすぎると物語の内容から逸脱しすぎてしまうので、ここまでにしておこう。



ともかく「宗教と科学の関連性」がこの物語の大きなキーワードである事、そして「宗教と科学に対して中立的な立場をとる科学者」が居るという事を知っていれば、この物語を大いに楽しめると思う。

ローマの美術品、墓所、地下道、建築物に関する記述は、その位置関係も含めて、すべて事実に基づくものである。これらは今日でも目にすることができる。イルミナティに関する記述もまた、事実に基づいている。(『著者注記』より)


イタリアのローマに行く機会があれば、本書を振り返りながらより堪能できることだろう。ダン・ブラウンの機知に富んだ世界観の中で繰り広げられる、天使と悪魔の闘いを楽しみたい。